仕込み水——巻機山系の超軟水
敷地内の深さ約60メートルの井戸から、巻機山系の伏流水を汲み上げています。硬度は約22mg/L、鉄分はほぼ検出されません。硬度が低い水は酵母に必要なミネラルが少ないため、発酵は自然とおだやかになり、醪の期間は一般的な蔵より三日から五日長くなります。手間はかかりますが、この遅い発酵がきめの細かい酒質をつくります。仕込みだけでなく、洗米、割水、瓶詰め前の洗瓶まで、蔵で使う水はすべて同じ井戸のものです。

酒米——雪見原の五百万石と越淡麗
使用する酒米の約八割は、蔵から半径二キロ以内の契約田で穫れたものです。五百万石は心白が大きく溶けやすいため、本醸造から純米吟醸までの土台に。越淡麗は新潟県が五百万石と山田錦を掛け合わせて育成した品種で、高精白に耐えるため純米大吟醸に使います。山田錦は兵庫県産のものを鑑評会出品酒にのみ、ごく少量。契約農家六軒の田は区画ごとに番号で管理し、収穫後も混ぜずに保管しています。

精米——自社精米機で、削りすぎない
昭和六十年から自社精米を続けています。外注に出さないのは、米の品温を上げずにゆっくり削るためで、純米大吟醸用の精米歩合40%まで落とすのに約60時間かけます。一方で、削れば良いとは考えていません。特別純米は精米歩合を58%にとどめ、米の旨味を残す設計にしています。精米後は一か月以上かけて枯らし、米の水分を落ち着かせてから洗米に入ります。

製麹——麹蓋による手作業
麹は機械を使わず、木製の麹蓋(こうじぶた)で造ります。一枚に入る蒸米は約1.5キロ。純米大吟醸一本の仕込みで、およそ300枚の麹蓋を使います。二晩にわたって二時間おきに蔵人が室に入り、盛り、仲仕事、仕舞仕事と手を入れていきます。手間の掛かるやり方ですが、蓋ごとに温度経過を変えられるため、その年の米の溶け方に細かく合わせられます。麹室の壁は今も杉の板張りです。

酒母と三段仕込み
定番商品の酒母は速醸系、「雪筵」の一部と熟成用の酒は山廃で立てています。山廃は乳酸を添加せず、蔵に住む乳酸菌の働きを待つ造り方で、酒母が仕上がるまでに約30日かかります。仕込みは初添・仲添・留添の三段仕込み。留添の翌日から醪の温度を毎日記録し、最高温度は品目によって摂氏9度から13度のあいだに抑えます。醪の期間は25日から35日です。

上槽——槽搾りと袋吊り
搾りはすべて槽(ふね)で行います。醪を酒袋に入れて槽に並べ、自重と緩やかな圧力だけで搾る方法で、一日に搾れる量は限られますが、雑味が出にくくなります。最初に出る荒走り、続く中取り、最後の責めは分けて受け、商品ごとに使い分けます。鑑評会出品酒と「雪筵」の一部は、袋を吊るして落ちる雫だけを集める袋吊りです。搾った直後の酒は直売所で量り売りしています。

貯蔵——雪室で、電気を使わず
平成二十四年に新設した雪室貯蔵庫では、冬のあいだに蔵の敷地に積もった雪を約200トン取り込み、その冷熱だけで庫内を摂氏3度前後に保ちます。夏でも空調は使いません。温度変化が小さく振動もないため、酒はゆっくりと角が取れていきます。ひやおろしは前年の冬に仕込んだ酒をこの雪室で一夏越させたもの、三年熟成の古酒も同じ庫で寝かせています。

